top of page

サポートハウス年輪

15周年記念講演会

   「泣いて笑って介護模様~介護家族のいま、働く人のいま」

    

  

 

 講師:沖藤典子さん

 

長年に渡り高齢者介護の問題を取材され、
昨年まで厚生労働省の社会保障審議会・介護給付分科会委員として活躍されました。

   

 楽天力で生きる 

   

 

15周年おめでとうございます。
これまで私は、色々な方にお会いして取材し、家族の苦しみ、施設で働く方々の悩み、ホームヘルパーの皆様のご苦労など書かせていただいてきました。また、社会保障審議会の介護給付費分科会の委員として介護報酬改訂に関わってまいりました。そのなかで得た情報や考えたことなどお話させていただきたいと思います。今、日本の社会は高齢化していて、100歳以上が4万人と言われております。昭和38年の統計が始まった最初の頃には153人であったのが4万人を越えたという素晴らしいニュースがございました。

   

「楽天力」沖藤典子さん著

 

自己紹介に変えて最近の私の経験をお話します。

 

 

 

この間ある薬局でお薬を買って1万円札を出したんですね。私は出したつもりだったんです。お財布の中にないんです。ところがそれが勘違いで、出していなかったんですね。レジの横に1万円札を見たという記憶があるんです。店長さん呼んでください、金庫の中も調べてくださいと言ったんですね。そしたら出してなかったんですね・・・。

 

そのとき私思ったんですが、なかったものが見えるっていうのは新しい能力ですね。
認知症の研究のお医者さんに言ったんですよ。年をとったら記憶がなくなるとか誰か盗ったとか、ここにおいたはずがないとかいうけど、それは確かにそこに見えている。それは喪失ではなくて無かったものが見える能力の獲得だと。

 

 

 

私はプラスに考えていきたいのです。
赤瀬川源平さんは老人力がついたといいますね。物忘れをしたらこれも老人力がついた、人まちがいしたらこれも老人力がついたと。

すると拒否的にマイナスにとらえないで、別な側面もあるよと。だから金子みすずさんの詩のように「見えぬものでもあるんだよ」というあの精神、それが生きていくうえで大事だと。
とするならば、老いて100歳超えている方々は確実に新しい能力を獲得しているはずで、自分にとっては大変都合のよい解釈をしているんですが、私はこれを“楽天力”といっているんです。

 

 

 

物事を予測して悲観的に考える人もたくさんいるんです。私も数年前にある年齢の大台を迎えましたら「沖藤さん、あなた1年ごとに体力気力が衰えていくからね。1年と言えないのよ」と言った人がいるんですよ。
余計なお世話ですよ。さっきもいったように新しい能力の獲得もあるのだから、それを脅かしてあなたの未来を予言するみたいに物事を悲観的に捉えるのは絶対に良くない。

 

 

 

ドイツの小話にあるんですが、2匹の蛙がミルク壷に落ちた。1匹はもう助からないと沈んでしまったんですね。もう一匹はなんとか助かりたいとミルクの中を泳ぎまわっていた。そしたら翌朝チーズの上に座っていた。これは楽天蛙というんです。楽天蛙のような何とかなるさやっていれば明るく元気に生きるコツじゃないかと思っているんです。

 

 

 

私は“そのとき主義”といっているんですが、そのときそのときベストを尽くし決してマイナスの取り越し苦労はしない。これを私の中年以降の人生の生きる思いにしてきたのです。これが私の基本的な考え方でございます。

  

■介護なくして人生なし

  

 

日本は世界に冠たる高齢国です。
平均寿命は女性が第1位男性が第4位。高齢者の人口が非常に多い。
2010年でみると65歳以上の人が2700万くらいです。高齢者の人口そのものは、やがて飽和状態がくるんですね。ということは今、団塊の世代が75歳以上になる頃までがピークです。いってみれば今が最後の上り坂ということです。これから75歳以上の人口が増えるということです。10年後第1次ピークが来て、あとは増えることは増えるんですが、2020年位をピークにするとすればあと10年なんです。あとは微増です。
高齢社会が大変だというのは、その大変さはどこにあるかというと、65歳以上人口の中身が変わる、いうことです。これがこれからの社会の課題だと思います。世界に例の無い急速な高齢社会というのが今の状況です。

 

 

 

介護家族は社会保障費の貧しさを受けて、大変苦労してまいりました。
日本が高齢化社会になったのは1970年、40年前です。大阪万博の年に、日本は高齢化社会に突入しました。2000年から介護保険が入ったわけですから、この30年間はまるっきりに家族介護を丸投げしていた時期でした。
それまでは措置制度があって、いわゆる低所得の方が一人暮らしとか介護する人がいないとか、一種の救貧政策です。特別養護老人ホームも昭和38年にできた。しかし、措置制度は一部の人が恵まれたサービスを受けられて、中くらいに暮らしているサラリーマンはまるっきりサービスの対象になっていなかった。その中でさまざまな家族の苦しみが語られました。

 

 

 

高齢化率が半分以上に低い韓国とほぼ同様の社会保障費ということは、いかに日本の社会保障費が貧しいか。そういう政策が行われてきたか、よくわかります。

  

 介護家族のいま

  

 

1970年の高度経済成長期まっさかりのピークの頃に、制度をきちんと作っておけば、もっといい制度になったと思います。70年から80年には「家族が介護するのが一番いい」「他人の冷たい手より家族の温かい手が一番いい」と言われました。

 

 

 

家族というけれど誰かというと嫁である私、娘である私です。血がつながっている夫は何の為に俺のところに嫁にきたんだ。親の世話をするはずじゃなかったのかと言って、さっさと逃亡したり。
私の友人も嫁の立場でくやしいくやしいと言っていた。彼は彼女がどんなに辛い思いをしていても知らんふり、見てみぬふり。おじいちゃんが亡くなり、おばあちゃんをあるとき実の娘に預かってもらうようにしたら、その時に限って早く帰ってきたといいます。帰ってきて妻の不機嫌な顔を見たり、愚痴を聞いたりするのがよっぽど嫌だったんでしょう。

 

 

 

日本は高齢者の自殺が多い国です。介護がどんどん重度化しています。
1970年前の方なら比較的早めにあの世に行かれた方も多いんです。ところが高齢化の進展と共に介護が重度化、長期化、病気がいくつもある重複化になっています。嫁がやればいい、家族がやればいいじゃないか、それが親孝行だという家制度の意識では介護が乗り越えられなくなりました。そういう時代じゃなくなったんです。

介護されている人が苦しんでいる、家族だって疲れれば温かくやっていられない。

自分の体のほうが大事だと思って当然です。

共倒れになった、嫁が先に倒れたという話があります。それがこの介護保険の始まるまでの30年間です。介護されているお年寄りの最大の思いは、私が生きているから、迷惑をかける。遠慮で言えない。だから黙って家で寝ている。嫁が毒を食わせたと言って栄養失調になった方もいます。

介護サービスを利用するという思想が日本に無かった。

 

 

 

   

介護されている方は苦しいから、介護している人に当たるんです。介護している人がされている人への虐待、たたくとか悪口を言う虐待の他に、逆の虐待があって、介護されている人が苦しみのあまり介護している人をたたくこともあります。男性は特にご注意ください。

 

家族の関係が介護を挟んで崩壊していく。親が倒れたらそこで兄弟げんかが始まる。分裂、義絶、離縁というものが始まる。そういうことは何とかやめたい。家族の関係を修復するような制度がほしい。こわれないような制度がほしいということです。

 

 

 

いま現在、介護を担っているのは、在宅では女性が圧倒的に多い。家族構成が劇的に変わり、この30年40年の間に老夫婦世帯、ひとり暮らしが増えました。3世代同居などは「きっとあそこの家はもめてるんだわ」と言われるようになりました。いまどき老人夫婦で暮らしていても誰も興味をもってくれない。そういう時代になった、変わったなと、思います。高齢者の自立意識が、非常に強く出てきました。

 

 

 

今の時代は、親というだけでは尊敬されない時代になってきた。子どもが社会人になっていますから親を評価するんです。これはまた大変なことです。親の生き方、人間性が子どもから評価される時代になっている。昔のように母であればいとしい、父であれば父として永遠に尊敬できる存在、そういうものはなくなった。どういう生き方をした親か、どういう子どもとの関係性をもったか、見られています。非常に大きく変わりました。

  

 男性介護者の増加

  

 

最近多くなったのは息子による介護です。
老々介護という言葉があります。高齢者が高齢者の世話をする。それは夫婦間介護でもあります。横老々と言います。同世代だから横です。親子の関係は縦老々と言います。その中で息子による介護が増えています。その息子さんが仕事をやめている人が、年間15万人ぐらいいます。ひとりしか収入の稼ぎ手がないときに、その一人がやめてしまうと一家は貧困に転落してしまう。

 

 

 

昔は85%~90%は女性による介護でしたが、今は3割くらいが男性による介護になっています。老いたる妻を介護している夫も増えています。男性介護時代になってきました。制度が出来ても介護の辛さは何にも変わらないと申し上げておきます。

  

 介護問題の三つの側面

  

1.

介護感情

  

 

介護には、長い人間関係が関わってきます。この介護感情を整理することが大切です。

 

例えば家制度意識、長男の嫁、嫁姑関係などがあります。しかし最近では、昔のように他人の冷たい手ということはなくなり、専門家の目と手が入って新しい親孝行観、つまり専門家の目と手を活用するのが、今の時代の新しい親孝行だという発想の転換が、できるようになってきました。介護を専門家にお願いすることによって、家族の愛情関係を大切にしていく方向に動いてきています。

 

 

 

ひとつ男性介護のお話をします。
15年間妻の介護をされていた82歳の男性です 。妻は地域活動を非常に活発にされていた方だったそうです。それがある日突然、くも膜下出血で倒れ、寝たきりになられたそうです。

 

以来15年間。

 

同じ敷地内に息子夫婦が住んでいるけど、「この人は私の妻だから、私が責任を持つ」といって嫁にもやらせない。勿論リフトや車椅子や入浴サービスなど他人の手を借りてです。この男性がすごいのは毎日食べ物やおしっこを記録していることなんです。自分のやってきたこと、妻の最後の日々を記録しておこうということです。そしてものすごく勉強しているんです。勉強型夫というのはすごいですよ。

 

その夫さんに質問しました。 「15年も介護は続いた理由は何ですか?」と。

 

答えは「愛しすぎない事ですよ」と言われました。1泊の旅行は出来ないけれど買物に行ったり、日帰りの旅行もできる。その間、もしものことがあってもこの人の運命だと割り切っているんですね。そして「昔悪い事をしてた」というんですよ。悪い事をしていた夫は妻の介護をするんですかね。

 

 

 

もうひとつ、妻が介護している例を紹介しましょう。
介護保険以後の取材なので、かなりの介護保険サービスが入っていました。要介護4の夫で、困る事は排便だということです。オムツを夫が嫌がるので、週2回浣腸をするらしいのですが、この時妻の手でないと出ないらしいです。人間の一番尊厳に関わる部分なので、一番辛いところなんです。そこは妻じゃないとだめらしいですね。

 

 

 

過去の夫婦関係が介護に現れます。
いい夫婦関係を持っていることが一番重要で、妻が優しく介護してくれると信じている夫たちが一番危険です。

  

2.

介護サービス事業所

  

 

身近にどの位のサービスがあるかが重要です。今重要なのは、首都圏では介護サービスが足りないので、逆格差、逆差別と言われています。大都市高齢者の比率が爆発します。
首都圏における介護サービスの準備が必要になります。

  

3.

介護政策

  

 

2000年から始まった介護保険制度は今年度末で丸10年となります。
私なりに分析したのですが、3つの失敗です。信頼の失墜と、制度の不信を巻き起こしました。これは早急に変えるべきだと思っております。特に介護保険制度で一番重要と思っているのは、自民党をぶっ壊すと言った総理が社会保障もぶっ壊したことです。5年間で1兆円削減計画を出してきたのです。

 

 

 

日本は高齢化率の高い3冠王といわれていながら高齢化率が半分しかない韓国よりも社会保障費が低い、そんな国がありますか。

  

■介護保険、丸10年の検証

  

 介護給付適正化事業による給付制限

  

 

社会保障費の削減の一環で、訪問介護の生活援助サービスを家族との同居者から、徹底的に削減したのです。

 

同居の定義も全国の市町村でバラバラです。ひとつ屋根の下に住んでいれば同居というところもあれば、500メートル離れて住んでいても歩いて来れるから同居、車で15分離れていても車で来れるから同居、週1回親の所に訪問するなら洗濯もできるから同居、もうめちゃめちゃです。

 

同じ要介護度の人でも家族がいるか、いないかで給付されるサービスが違うなんて話ありますか。介護保険制度の平等性に反するでしょう。やっぱりおかしいことはおかしい、といっていかなきゃと思います。

 

 

 

訪問介護の散歩や病院の院内介助も制限されましたよね。これもおかしいですよ。散歩については大運動があって、随分認められるようになってきました。西東京市は同居や散歩の定義がそうやかましくないそうで、人情のある自治体なんですね。

あれダメ、これダメで在宅で暮らすことが制限だらけになってきていて、介護保険制度は在宅重視と言いながら、全然約束が違うじゃないか、というのが私の思いです。第Ⅲ期2006年度から2009年度の報酬改正がひどかったですね。

  

 介護労働政策の失敗

  

 

介護職の月給は男性では全産業の6割くらいです。その差が余りに大きいということで、離職がどんどん進んでいます。特に23区の離職が進んでいます。横浜などではベッドがあるけど働く人がいないので、入居者を受け入れることが出来ない状況です。

  

 

昔の人の言葉に「1文惜しみ百両知らず」というのがあります。教育とか働く人の手当をきちんとやらないと、高齢者は重度化していき医療費はかかるわけですよ。介護というのは、軽度のところでとどめておく、在宅介護が中心でなければいけないと思っているのです。

 

介護保険は生活を守る保険なのです。病気の方は医療でみていただき、生活が成り立つように支援するのが介護保険です。

 

自立支援を変な風に解釈していますよね。90過ぎても腰が痛いといっても、立てるのだったら立ちなさい、包丁もってやりなさい、挙句の果てに栄養失調になった人がいるんですから。人の心に沿った支援になっていかないと思います。

  

 

ヘルパーさんに「どうして介護職という仕事に就いたのですか」と聞くと「働き甲斐のある仕事だと思った」というんです。ところが実際に就いてみると賃金が安いし、人間関係がよくない。施設経営には前時代的なところもあります。同族経営が多い。経営者の理念に納得いかないと言って、辞める人も多いと聞きます。

  

 

介護報酬の話になるともう迷路です。いろいろ加算が付いたのですが、つぎはぎ建て増し温泉旅館なのです。ちょっとやそっとでは理解できない。

社会保障審議会の給付費委員会の中で、このような委員がいたのですよ。
「大企業の方がスケールメリットがある。地域に密着しているような小規模事業所は、市場から退場してもらっていい」と。大手はいろいろな経費を一括処理できるからメリットがあるので、大手を育成してということですよ。

これには絶対反対です。ホームヘルプは人の心、人と人との関わりの中で、人間を支える仕事でしょう。地域に根ざした団体の努力を踏みにじるようなことは許せません。

  

■泣いて笑って介護模様

  

 介護保険は介護を変えたか

  

 

介護サービスを上手に利用するのが今の時代の親孝行です。介護のためにお金を使おう。子供にイヤな思い出を残さないようにしよう。介護の専門性は非常に高くなっています。それにもかかわらず賃金が低い、社会的評価が低いですよ。

  

 家族を変えたか

  

 

認定は460万人、利用者360万人、その差100万人はどうしているのか。全ての人が介護保険を利用するまでになっていない。

  

 愛は守られているか

  

 

介護疲労による虐待、殺人、自殺は増えている。介護のために仕事を辞めてはいけない。外に人間関係をもっていないと密室状態になってしまう。

 

 

 

最近の高齢者の顔は穏やかです。「介護は専門家に、愛は家族に」。
他人様によって幸せになる「他人幸せ」ですね。介護保険だけではできない事があるので、お互い支え合える関係がどこまでできるか、これからは地域の成熟が課題になります。

  

 

最後に

  

介護する人とされる人が共に笑顔であることが重要です。

 グループホームでも特養ホームでも、どこででもです。

  

介護の専門職の待遇改善がなければ介護保険はつぶれます。

 働き手はいなくなります。待遇改善は急務です。

  

個人としての努力も重要です。

 経済、健康、そして生きがい、さらには情報をしっかり持つことなど、個人としての努力も忘れてはいけませんね。

  

 

(2009年10月25日:西東京市民会館)

  

 

  懇親会の様子 安岡理事長(左)沖藤典子さん(右) 年輪利用者の方が書いて下さいました。

 

    

  

― 書籍のご紹介 ―

   

  

  

「別居介護 成功の秘訣」


安岡厚子 著 1400円(税別)2003年12月

創元社

 

https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=2915



※この書籍をご希望の方は
 直接出版社までお問い合わせください。

 

「介護保険はNPOで」は
全国書店にて販売致しております。

各書籍共にお電話・メールにて
お申し込みいただけます。

料金は、本代金×数量+消費税
+宅配代金です。
(同封の郵便振替にてお支払下さい)

―お申し込み―

電話 042-466-2216
FAX 042-451-6071
MAIL 

  

「介護保険はNPOで」

 

安岡厚子 著 1600円(税別)2001年9月

ブックマン社

 

 

「イラストで見る高齢者サポートQ&A」

 

安岡厚子 著 2200円(税別)2002年12月

真興交易医書出版部

「ホームヘルパーと上手につきあう」

 

安岡厚子 著 1400円(税別)1999年1月

自治体研究社

 

「居宅介護支援専門員の為のケアマネジメント入門」


居宅サービス計画書のつくり方
サービス担当者会議の開き方
モニタリングの方法

土屋典子・長谷憲明 著 1800円(税別)

瀬谷出版 03-5211-5775

※この書籍をご希望の方は直接出版社までお問い合わせください。

 

 

「24時間365日在宅ケアに挑戦して」

 

安岡厚子 著 728円(税別)1996年2月

自治体研究社

「年輪デイホーム」

 

1000円(税別)

 

*申し訳御座いません、ただいま欠品中です。

bottom of page